喫茶店

正午を回ったのか回っていないのか、時計を見なければ分からないような白んで薄暗い外。小さな喫茶店にいるのは初老のマスターと私たちだけで。マイルスのSmoke Get In Your Eyesが小さく店内に流れていた。

「別れよっか」

唐突に口をついて出た言葉に、まず自分で驚いた。手元のマグカップに落としていた視線を恐る恐る上げる。彼は驚いた風でもなく、ただ、少し目を細めて外を見ながら煙草を吸っていた。

「そっか」

呆気なく同意をする彼に少しの苛立ちを覚える。自分でも本気なのかどうか分からない言葉に、こんな風に簡単に同意されるなんて。

「私のこと、もう好きじゃない?」
「好きだよ」

無表情で答える彼の心が読めなくて動揺してしまう。からん、とマスターが置いたのであろうスプーンの音が耳につく。

「なら、なんで、引き止めないの」

少し口角を上げて苦笑するのを見て、彼は今日初めて笑ったかもしれない、と思う。

「引き止めたら、今のは無かったことになる?」

その言葉で、私は頭を小突かれたような気がした。無意識に、彼を少し試そうとしていただけなのかもしれない。けれど、それ自体が、私たちにとっては。二人の関係の、終わりを告げていた。

「雨が止むといいな」

黙り込んだ私に目もやらず、彼が独り言を吐く。揺らめく煙につられて外を見れば、強くも弱くもない雨が誰もいない道を濡らしていた。


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