手をとりあって

「サラ、今日も下を向いて歩いているのね」
「足元が不安定なのよ」
「前を向いていないと、それこそ危ないわ」
「誰かにぶつかって恋でも始まれば良いのに」
「そんなこと思ってもいないでしょう?何を考えていたの」
「何を…そう、人はどうして生が死より幸福だって決めつけるのかってこと」
「簡単よ。死んだことがないから」
「ニコルは死んだことがあるのかしら」
「無いわ。私たちが分かるのは、生きていると幸せなことと不幸せなことがあるってだけ」
「ふふ、その通りね。本当に、死にたい人間を励ます言葉ほど愚かなものも無いわ。あれは、なんというか…エンジンの壊れた車にガソリンを入れているみたい」
「ついでにガソリンに火を点けていく人もいたりして。燃えたあとに、煙い、なんて言うのよ」
「ねえニコル、私たち、どうして生まれてしまったの」
「さあね。サラ、前を向いて。手をつないで歩きましょう」