綺麗だ、と思った
「どうして?」
彼女の瞳は潤んでいて、今にも溢れそうな涙のひとしずくが下まぶたに懸命にしがみ付いていた。綺麗だ、と思った。
「他に好きな人ができたの?」
「ちがう」
「私が何かしちゃったの?」
「ちがう」
「めんどくさくなったの?」
「ちがう」
「私のこと嫌いになったの?」
「ちがう」
そこではじめて、彼女は俯いてしまった。溜まっていた涙が白いテーブルクロスに染みを作っていく。綺麗だ、と思った。
「どうして人は理由を求めるんだろうね」
「だって納得できないもの」
「理由があれば納得できたかい」
「できないよ。あなたのことが好きなの」
「どうして?」
彼女は顔を上げると、真っ赤に腫れた目で僕を睨んだ。彼女の精一杯の抵抗は無力で、脆くて、刺さった。綺麗だ、と思った。
「ごめんな」
愛しい、と思った。