乾ききってしまった彼女と僕の最後

彼女と出会ったのは、小鳥のさえずりが春を呼び始めた2月のことだったと思う。今思えば、まるで僕らの出会いを祝福するかのような早い春の訪れだった。

早々に何度かすれ違いを繰り返した僕は彼女の心を繋ぎとめようと、千葉から北の方角へ自転車を走らせた。幾つかの山を越えた先で、彼女は僕を待っていた。こんな僕を待ってくれる存在が、たまらなく愛おしかった。嬉しかった。

それからは同じ屋根の下で苦楽をともにし、温もりを分け合った。暑い日も寒い日も、暗い日も明るい日も身体を重ね合った。どんな高級な香水よりも、若い彼女の身体は芳しく香り、僕を離さなかった。

あの頃の僕は、彼女がいないと何もできなかった。渋谷の夜の雑多な街中、人もまばらな昼の総武線。どんなところにいても、彼女と似た香りがほのかにするだけで狂おしいほどに彼女を思った。醜い僕も、情けない僕も、彼女は全て受け入れてくれた。

それなのに、いつからだったろう。いつかは必ず訪れてしまう彼女との最後を意識するようになったのは。そしてそれが結果として、彼女との最後を早めてしまうことに気づいたのは。怖れは僕を臆病にさせて、少しずつ、少しずつ彼女との時間が減っていった。彼女もまた、少しずつ、少しずつ乾いていった。

もう駄目かもしれない。そんな不安が確信に変わった頃に、僕は昔を思い出しながら、いつかみたいな優しさで彼女を抱いた。共有した一年と半年余りの時間は僕にとって、そして彼女にとってもきっと特別なもので、無かったことになんてできるはずもなく。君と会えて嬉しかったこと、君の香りが素敵だったこと。全てを肯定したいと思えた。

彼女はついに乾ききってしまった。それは、僕と彼女の最後だった。僕は堪えきれず涙を零した。でも、僕の涙は彼女の乾きを癒せなかった。自分の無力さを嘆きながら嗚咽していると、彼女は言った。

「私を見つけてくれて、選んでくれて、ありがとう」