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双子の話

SS

一卵性の双子に生まれて、私たちは同じ顔をして、同じ声をして、同じ服を着て、同じ愛情を受けて生きてきた。美織と詩織なんて似た名前を付けられて、たまに自分の名前も忘れてしまいそうになるから髪型だけは変えてきた。美織は鬱陶しいからといってショートにしていた。私は自分の髪の匂いが好きだったから肩まで髪を伸ばした。

双子がいて嫌だったことと言えばそれをからかう人たちがいることくらいで、私は美織のことが好きだったし、自分の環境を恨んだことはなかった。

そう、なかったのに。

同じように生きて、私たちは同じ人を好きになってしまった。彼が2人いればよかった。彼は1人しかいなかった。

春は私たちの幼なじみで、盲目だった。だから、春がどうして美織を選んだのか分からなかった。きっと少しのタイミングの違いや、はじいたコインが表か裏で出るかくらいの差で、春は美織を好きになったのだと思う。

今だから言える話だけれど、あれは事故じゃなかった。美織が死んだのは、私がそうなるように仕向けたからだ。10tトラックが美織を轢き殺したとき、とても悲しかった。とても嬉しかった。

美織のことが大好きだった春のためだから、と私が泣きじゃくるとことは簡単に進んだ。世間では詩織が死んで、晴れて私は美織になった。私の浅ましい嘘や計らいはすぐに野晒しになると思っていたけれど、そんなことはなかった。春さえも、ショートカットになった私を美織と信じて疑いもしなかった。

彼が横たわる病室のベッドの横で昔のことを思い出していると、外では風に吹かれた桜がひらひらと散って舞う。嘘に塗り固められた愛おしい日々が鼻腔を通って、それを深く深く吸い込んで吐き出す。美織が持っていた全てを私は手に入れた。だって、私が美織だから。春の愛する美織は私だから。夢みたいにあっという間だった。もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。人が見る夢はどうしてこうも儚いんだろう。

彼の手を握っていると、最後の力で彼は私の手を握り返した。私が微笑みかけると、最期の力で彼は呟いた。

「ありがとうな、詩織」