夢精の話〜ぼくが夢精を乗り越えるまで〜

 

みなさんは何か人に話せないようなコンプレックスを抱えているだろうか。誰しもひとつやふたつは、打ち明けられず心のうちに隠しているものがあるだろう。あるいは、コンプレックスがないこと自体がコンプレックスになってしまった人もいるかもしれない。

かく言うぼくもドロドロのロリータコンプレックスだ。というのは冗談で口に出せる程度のもので、実のところ大っぴらにはなかなかできないコンプレックスがぼくにもある。

 

 

ぼくは、青年期のほとんどを、夢精に怯えながら生きてきた。

 

 

夢精に苦しむひとたちにとって、ほんの少しでも支えになることを願ってこの記事を書いている。

夢精とは?

端的にいうと、夢精とは睡眠中の射精だ。えっちな夢を見た場合に起こると言われることが多い。しかし、必ずしもそうでない場合もある。体内に過剰量の精液が溜まり、分解吸収できなかったものが夢精を通して排出されるケースもある。

夢精って気持ちいいんでしょ?と男性の中には夢精に幻想を抱いている者もいるが、この際はっきり言っておかなければならない。

夢精は最悪だ。

そもそも、えっちな夢を見て夢精することは少ない。いや、実際にはそのような夢を見ているのかもしれないが、みなさんもご存知のとおり夢というのは大抵起きたとたんに霧散してしまうものだ。どんな夢だったのかは起きたときには頭からすっかり抜け落ちている。加えて、より悪いことに夢精というのはほとんどの場合、射精する瞬間には目が覚めている。

深夜、射精に伴い目を覚まし、下着の汚れを確認する。ひどい場合にはパジャマも汚れている。洋服を着たまま射精してしまう不快感。家族が起きていないことを確認して洗面台に向かう。汚れを洗い落とす。本当なら洗濯機にでも突っ込みたいところだが、2枚も下着が洗濯に出ていたらおかしいのでそれもできない。やむなく、家族の起床に怯えながらドライヤーで簡単に乾かしたのち、生乾きの下着を再び着る。

お分かり頂けるだろうか。気持ちよさよりも、夢精の不快感は100億倍くらい大きいものなのである。

夢精の苦しみ

ぼくが初めて夢精したのはたぶん、小学5年生のときだった。そのころぼくは、高学年にもなっておねしょをした。おねしょのわりには量が少なく、寝具は汚れず、下着も少し湿っぽいだけだった。誰にも言わなかった。

当時のぼくは、キスしたら子どもが生まれると考えているくらいには性的知識が乏しかった。だから気付くことができなかったけれど、あれは夢精だったのだと思う。ぼくの精通は、無意識のうちに夢の中で済まされたのである。

ぼくが夢精を意識することができたのは、中学生になってからだ。定期的に発生するそれが「おねしょ」ではないことを理解し、そして苦しむことになる。

まず、誰にも相談できなかった。夢精が生理現象のひとつであるとしても、まさか家族に相談できるわけがなかった。家族に性的な悩みを相談するなんて、思春期の子どもにとってはハードルが高すぎる。友人にも相談できない。からかわれるに決まっているし、場合によっては気持ち悪がられ、最悪の場合いじめに発展するだろう。思い出してみてほしい。あのころの子どもは残酷で、学校のトイレでうんちしただけでも馬鹿にされ、すぐに話が広がってしまう。夢精のことなんて話せるはずがない。

また、夢精によってぼくは寝不足にも襲われた。疲れてどっぷり眠りたい夜。翌朝早く起きなければならない夜。そういうときでもお構いなく夢精は起きた。その度、ぼくは眠い目を擦ってもう擦っても勃たない不甲斐ないそれをぼんやり眺めた。

恐ろしいことに、夢精は時と場所を選ばない。家にいるときなら、まだいい。家族の目さえ盗めれば、あとは決まりきった手順で夢精の処理ができる。しかし夢精は、例えば祖父母の家に泊まったとき、友人宅に泊まったとき、部活の合宿、修学旅行、いつでも発生した。その度ぼくは不快感に襲われ、誰かにバレることに怯え、しまいには宿泊イベント自体が嫌になった。

エロいことばっかり考えているから夢精するんだ、と思われてしまうのも怖かった。ぼくは少し下ネタが好きで、赤いランドセルを見ると勃起してしまうだけの、いたって普通な思春期の男の子だった。だから、人から「実はそういうことばかり考えている」と思われるのはぼくの尊厳に関わる問題だった。

そう。自身の尊厳を守るためにぼくは、夢精を人から隠し通さなければならなかったのだ。

夢精の終わり

思春期の間だけの問題だと思っていた夢精は、それからずっとぼくにのしかかり続けた。中学生、高校生。そして大学生になってもそれは続いた。打ち明けるのには本当に勇気がいるのだが、実のところサークルの合宿や、宅飲みした夜にも夢精した。汚らしいと罵られても構わない。それ以上にひどい言葉で、ぼくはぼくを侮辱し続けてきた。

そして、夢精の終わりは突然に訪れた。気がついたら、ここ4、5年は夢精をしていない。理由は分からない。分からないが、今でもぼくは、明日は夢精してしまうのではないかと怯えながら日々を過ごしている。

夢精の予防法

プラセボかもしれないが、ぼくがどうしても夢精したくないときにやっていた予防法を紹介しよう。

  • 定期的に自慰を行う

射精は生理現象のひとつなので、好奇心旺盛で精液の分解吸収能力がまだ低い思春期には、必要以上に精液を溜めないことが大事だ。抜いたその日でさえその晩に夢精することもあるので、抜いたからといって確実に夢精を避けられるわけではないが、リスクを低減させる堅実な方法と言えるだろう。

  • 就寝前のエロを避ける

眠る前にえっちな絵を見たり、話を読んだり、AVを観るなんてことはもってのほかだ。夢というのは自身の頭の中に潜む様々が織りなす物語なので、眠る前に頭の中にエロを敷き詰めることは夢精のリスクを格段に上げてしまう。寝る前にはなるべく親鸞の教えに触れることをお勧めしたい。

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  • おしっこをしておく

これは、なぜか分からないがよく効いた。尿を溜めないことで、下腹部まわりに向かう不要な意識みたいなのを避けられているのではないかと考えたが、原理は不明だ。逆に、眠る前にトイレに行き忘れた晩にはよく夢精し、おねしょしたかと焦ったものである。

  • うつ伏せで寝ない

睡眠中は、小さな刺激が夢に反映されてしまったりする。だから、なるべく息子への刺激は排除しなければならない。うつ伏せで眠るとどうしても身体と布団の間で息子が圧迫され、それは、つまり、その…

 

 

 

 

 

床オナだ。

 

 

最後に

このコンプレックスは、ずっと、なかなか人に打ち明けられなかった。夢精をしなくなった今だからこそこうして記事にして振り返ることができるが、内心では他人に軽蔑されるのではないかとビクビクしている。

でも、もしもあなたも夢精に苦しんでいるのなら、どうか自分自身を否定しないで欲しい。夢精は生理現象のひとつで、それこそ生理と同じ不可抗力で止められるものではない。

そして、もしもあなたが誰かの夢精を思いがけず知ってしまったら、どうかそっとしておいてあげて欲しい。夜中に友人が1人洗面台に向かって何かを洗っているとき。洗濯物になぜか2枚の下着が出ているとき。何も気づかないフリをしてあげて欲しい。それを隠し通すことは、きっと彼にとって尊厳に関わる問題だから。

もしもその誰かが夢精について打ち明けたとき、どうか囃し立てないであげて欲しい。彼らはただ、自身が夢精しているということだけでこれ以上なく苦しんでいるのだから。夢精は誰にでも起こることではないから分かりづらいかもしれないけれど、生理現象のひとつで、どんなにしたくないと願っていても起きてしまうのだから。

ムセイオン - Wikipedia