神聖なこと

人を殺すことでしか得られない快楽というのがあるようで、それは人を殺すことでしか知ることができないようだ。想像力を働かせて、右手にナイフを持ってみる。そのナイフを縦横無尽に振り回す。初恋の人を殺す。尊敬していた先輩を殺す。近所の子供を殺す。父親を殺す。今でも優しい友達を殺す。全然気持ち良くない。

人を殺すことでしか満たされない欲というものがあるようで、それは人を殺さなくても抱え込んでいるみたいだ。想像力では補えない触覚や視覚や嗅覚がある。飼っていた犬を殺す。群がる鳩を殺す。野良猫を殺す。全然満足できない。

もっと感覚全てに訴えかけるような死が、それでいて感情が摩耗するような死が、右手のナイフを伝う血が、重みなんてない命が、奇声を上げる人間の最期まで醜いが終わる音もしないまま終わるのを見る快楽だ。信じたもの全てに裏切られて自分自身にも裏切られて何もかもどうでも良くなってそれでもかすかに灯る欲自体が人を殺すを満たすために人を殺すために生きることそのものが欲だから。だから?人を殺したことがない人間が人殺しはいけませんなんて知ったような口を聞いてる人間を殺す。人を殺したいなら自分を殺せよなんて自分を殺したこともない人間が許せないから殺す。だんだん楽しくなってくる。人を殺す。満たされない。殺す。気持ちいい。楽しい。

人から奪う幸せは美味。人を殺す快楽はヘロイン。ヘロインもやったことがないけれどきっと人を殺すみたいな全能感と生まれながらにして不平等な人間が人間の上に立つ神様みたいな神聖なこと。