風船

「ねえ、フィル、この間の話の続きだけれど」
「この間の?」
「ええ、幸せについての話よ。あなた、幸せはガムのようと言っていたわね」
「ああその話かい。覚えているよ」
「考えてみたのだけれど、フィルの考え方は、その、少し楽観的だと思うわ」
「そうかな?むしろ悲観的な、あるいは虚無的な考え方だと思っていた」
「初めの内は噛めば甘く、それなのに噛み続けていると味を失って、無味になる。確かに虚無的ね。でも、その例えならまた新しいガムを食べればいいじゃない。私たちがそうであるように、幸せは手に入れるほど苦痛を伴って遠ざかっていく、いえ、遠ざけてしまうものなの」
「なるほど。それならエミリーは、幸せを何に例えるんだい?」
「幸せの後には不幸が待っていて、だから、つまりは、風船のようなものかしら。膨らませれば膨らませるほど、大きな音を立てて割れてしまう。怖くなって、息を吹きこむことすらやめてしまうのよ」
「若い頃は違ったのになあ」
「そうね。あの頃は、どんなに大きな音を立てて割れてしまってもまた新しい風船を探していたわ」
「君はいつも正しい。正しかった君に、もう一つ聞きたいことがあるんだ」
「それは聞かないで。」
「ごめんエミリー、それでも聞かずにはいられない。」
「だめよフィル。お願い、」
「君はどうして死んでしまったんだい?」