まつをのラジオ:習い事

「こんばんは!繰り返される諸行無常!よみがえる性的衝動!まつをです!」
「ボールにいっぱいのポテサラが食いてぇ…はっ!まいまいだよー!」
「ここのところ良いお天気ですが、今日はとっても寒いですねえ」
「風強いからねー。通勤用のコートは買った?」
「まだです!中に着込んでなんとか耐えてます」
「風邪に気をつけてね!インフルも流行ってるみたいだし」
「酉年生まれなので鳥インフルにかかっちゃうかもです!それでは今日のテーマは『習い事』です」
「習いごとたくさんやってたよね」
「そうなんです!ありがたいことに。これやりたい!って言ったらやらせてもらえる家庭でした」
「最初はピアノ?」
「実はピアノよりも前に英会話に通い始めてました。ピアノも英会話も兄がやっていて、その真似っこで」
「じゃあ英語話せるんだ?!」
「SEX!!!!」
「…」
「何事もそうですが、習い事は真面目にやらないとちっとも身につかないんですよね。ピアノも10年くらいやってましたが、あんまり上手くなりませんでした」
「まいまいもピアノやってみたかったな〜。四月は君の嘘で感化されちゃった!」
「ああ、すごく分かります!久しぶりにピアノ弾きたいなって、あれ見て思いました。まいまいはテニススクールに通ってましたよね?」
「そうそう!パパがテニス好きだったから一緒にやりたくって。中高もテニス部に入ったよ」
「僕も近所のテニススクールに通ってたことがありました。楽しいですよね」
「楽しいよねー。ラリーしてる時が好きかなあ。ぽーん、ぽーん、って」
「僕は結局ペニスが好きになりましたけどね」
「…」
「ちなみに硬式が好きです」
「それ以外は何かやってたっけ?」
「あとは塾ですね。これもやれと言われたのではなくて、自分から行きたい!って言いました」
「おお、真面目!」
「と思うでしょう?きっかけは進研ゼミの漫画ですよ。あれに憧れて、モテたくて、勉強したくなって」
「そこで進研ゼミは始めないんだ?(ゎら」
「家で一人で頑張るのは続かないなーと思ったんです」
「進研ゼミ続けると頭が良くなるっていうより、進研ゼミ続けられる人は頭が良いよね」
「それですそれです!」
「あ、お手紙きてるよ!」
「おお!どれどれ…広島県在住の教育ママさんから『娘が習い事をしたいと言い始めました。家計を考えると、とても苦しいです。どうすればいいでしょうか』。んんんんん重い!」
「難しい問題だねえ…」
「自分はやりたいことをやらせてもらえました。幼心に、両親がかなりキツそうだったのを覚えてます。たぶん無理をさせたんだな、と」
「まいまいはダンススクールには通わせてもらえなかったなあ。テニスかダンスか、どっちか一つにしなさい!って」
「子どものことを想うのはとても大事です。でも、そのことで無理をする必要はないんじゃないかな、と思います。無理だと言ったら今は拗ねたり怒ったりするかも知れないけれど、いつか教育ママさんの気持ちも分かってもらえる日が来るはずです」
「そうそう!無理しちゃだめだよ!」
「あとは、より安価な習い事を勧めるとか、習い事はさせないけど家でやらせてあげるとか。例えばピアノなら、安いエレピなんかを買って親子で練習したら楽しいんじゃないかなあ」
「あー、いいね!連弾なんかできたら楽しそう!」
「いずれにせよ、子どもとの関係を壊さないためには誠実でいなければならないと思います。適当にあしらったりすると、子どもはそれに気づいてしまいます」
「子どもって、案外よく見てるしよく分かってるよね」
「あと、個人的にはお金の話はしない方がいいかなと。うちはビンボーだから、みたいなのを言われ続けると、子どもの中には発散しようのないストレスがたまってしまいます」
「お金の話されるのは嫌だよね。心まで貧しくなっちゃいそう」
「とても難しい問題なので良いことは言えませんが、教育ママさんなりに子どものことを想って、でも無理はせずに、といったところでしょうか!」
「大丈夫!ママの気持ちはちゃんと分かってもらえるよ!」
「それではそろそろおいとましましょう。次回のテーマは『聖なる夜』です!」
「メリィィィィィィィィィィ…まいまい!」
「長くなってしまいましたが、芭蕉さんどうぞ!」
「ムラつくよ 家庭教師の お姉さん」
「ありがとうございます!それではまた来週!」
「しーゆーねくすとうぃっ!」

大変動する世界

2016年10月1日、世界は大きな転換期を迎えて混乱していた。騒ぎに乗じて金儲けを企む人、今まで通りの平穏を願う人。望んでいなくとも、世界が変われば僕たちはそれに巻き込まれることになる。

新しい米大統領が就任し、あらゆることががらりと変わってしまったのだ。

そんな日に、僕は彼女と同棲を始めた。専門学校を卒業した二人は晴れて社会人となり新しい生活が始まった。

休日、まだ生活感の全くない部屋で彼女を見送ったあと、家にサークルの後輩が訪ねてきた。

「先輩はいつも、分かりやすかったですよね」

そう言って後輩は、少し泣きそうな目をして苦笑いした。あいも変わらず可愛かった。サークルの男たちがこぞってその後輩を取り合っていたが、結局誰も付き合うことはできなかった。僕も、そんな男たちの一人だった。

「告白はされませんでしたけど、外堀埋めようとしてるなあって。だから、私は…」

そこで言葉に詰まる後輩を見て、ああ、両思いだったんだ、と知った。僕が告白するのを待っていたのだと思う。それなのに僕は。

「先輩のこと、好きでしたよ」

僕にはもう彼女がいて、後輩への想いは忘れたはずなのに。健気なその笑顔を見て、僕は自制することができなかった。目を瞑って唇を重ねる。彼女とは違うキスの感触が、唇の柔らかさが、ただただ愛おしかった。

埋められなかった距離を取り戻すみたいに触れ合って、抜いで、肌を重ねて。そこで僕は冷静になった。

「彼女が、帰ってくるから」

嘘をついた。嘘を付かないと、後輩との行為を止められなかった。後輩も、それが嘘であることを見抜いていたと思う。最後にもう一度だけキスをして、後輩はわがままを言うでもなく、家を出て行った。

とてつもない後悔に襲われた。彼女はこれを浮気と言うだろうか。どちらにせよ、このことは僕と後輩の秘密だ。過去の自分に報いるための秘密だ。

何事もなかったように彼女の帰りを迎えて、食事に行った。サークルの同期の友人が二人来て、イタリアンで夕食になった。二人は、僕たちの新しい生活を祝ってくれた。

がたんと、店の戸が乱暴に開けられる音がして目を向けると、小中時代に親しくしていた友人が僕を呼び出した。突然のことに驚きながらも彼の話を聞く。

「今なら100万円が1億円に変わる。ありったけの金をくれ。何百倍にもなって帰ってくるぞ。今しかないんだ」

いきり立った彼が怖くなって、また後で連絡するから、と言って彼を帰した。彼が明らかにおかしなものに手を染めてしまっていることに悲しくなったが、その言葉を信じてしまいそうになるくらい、世界は激動していた。株価は20%もの高騰を見せた。食品の物価は変わっていないが、医療費は格段に下がり、日用品はバカみたいに高くなった。全て今日1日で起きたことだ。

席に戻ると、彼女と友人二人が心配そうに僕を見た。

「大丈夫。悪い人じゃないから」

店を後にして、彼女と手を繋ぎながら新居へと帰った。彼女は僕と後輩の出来事を何も知らない。知らないままにあの家に帰る。

僕も彼女のことを何も知らない。今日彼女が出かけた先も、誰に会っていたかも知らない。知らないままにあの家に帰る。

大変動する世界に巻き込まれ、飲み込まれながら、僕たちは何も知らないままに、平穏な日々を生きようと努めていた。

テトリスの話

子どもの頃、テトリスにハマっていた。ボタン電池で動く小さなゲーム機と言って伝わるだろうか。デジモンやたまごっち辺りが有名だが、ああいったサイズの筐体でテトリスをできるものがあった。

朝も夜も気が狂ったようにテトリスで遊んでいた僕は、次第に本当に狂ってしまった。ゲームを持っていなくても、無意識のうちに頭の中でテトリスが始まるのだ。2×2ブロックや凸ブロックが止めどなく落ちてくる。それらを右へ左へとさばいていく。ぼうっと空けているときばかりではない。食事をしているとき、人と会話をしているとき、ライブを見ているとき、映画を見ているとき。次から次へと降り注ぐテトリスが頭の中で消えては現れる。

だんだんと怖くなってしまった僕は、ボタン電池が切れたことをきっかけにテトリスをやめた。それでもしばらくは頭の中でブロックが降り続けたが、それもしばらくすると治った。あのまま行くと、僕は完全にテトリスのブロックに埋まってしまっていたかもしれない。

テトリスはセックスだ

テトリスと聞いて、どんなゲームかわからない方はそうそういないだろう。だが、せっかくなのでテトリスについて少し解説しよう。

テトリスはセックスだ。穴を作っては、そこに挿す遊びだ。大事に作り上げたおまんこほど、棒を挿し込んだときの快楽は強い。僕はきっと、子どもながらにその快楽に取り憑かれてしまったのだと思う。挿しては消えゆく儚いおまんこを求め続ける少年時代だったのだ。

ところで、穴を作っても一度ふさがってしまうとなかなかそこに挿すことはできないのもテトリスの難しいところであり、面白いところだ。あれはそう、なんとなく処女を守っていた女の子がだんだん理想を高く持ちはじめ、捨てたいのに捨てられない処女を抱えているみたいだ。あの穴は、一筋縄では挿れられない。

あぁ、挿れたい。

仕事はテトリス

仕事というのは、テトリスみたいなものだ。と言った話を兄とよくする。

投下されるタスクを順調に積み上げているうちは綺麗に消えてゆき、次のタスクを待つことができるし、なんならこちらからタスクを早く落とすよう求めることすらできる。

しかし、少しいびつなブロックが続いたり、投下速度が上がったことを原因に一度埋められない穴を空けた途端に状況は一転してしまう。小さな穴が癌となり次の穴を生む。連鎖的に増えて行く穴により形はガタガタになり、タスクが積み上がっていく。焦りだした頃には手遅れで、底の方に残った穴はもう到底埋めることができない。

兄も僕も、残り四段くらいでゲームオーバーというところで、なんとかギリギリテトリスを続けているみたいだ。血は争えない。ゲームオーバーになったら、もう全てを投げ出して逃げるしかないのだ。だから、なんとか、血反吐を吐きながら仕事を続ける。いや、もしかしたら、いつかのテトリスみたいに、僕らはテトリスをやめてここから逃げないといけないのかもしれない。

ところで、お気づきだろうか。
テトリスはセックスだ。
仕事はテトリスだ。

つまり…

仕事はセックスだ

うまくやれば気持ちいいものなんだ。それを忘れないでいたい。







※セックスは仕事だという帰結に至ることもできる

まつをのラジオ[番外編]:まいまいとデート〜駒込〜

駒込からこんにちは!秋は幼女の下着の香り、まつをです!」
「まいまいだよー☆」
「本日は番外編ということで、お昼に収録を行ってます!そして今日は駒込でまいまいとデートです!」
「またニッチな場所で攻めるね…」
「そうですか?駒込と言えば化学の実験でお馴染みの駒込ピペットの由来ですよ。100年くらい前に駒込病院の院長さんが考案したんです」
「そうなんだ!駒込ピペット懐かしい〜!あのぷにぷにが気持ちいよね!」
駒込は地理でいうと巣鴨の隣駅、というと分かりやすいでしょうか」
巣鴨は有名だね〜♪」
「さて、まずはこちらサーティワン駒込駅前店!」
「こんな寒いのにそのチョイスはどうかと思うよ…」
「まいまいはどれにしますか?」
「ウーララ!パンプキンにしようかなあ🎃」
「僕はバニラにしますかね」
「でもなんで駒込なの?」
「ちょうど紅葉シーズンじゃないですか。駒込駅からすぐの六義園は紅葉の名所なんですよ」
「そうだったんだ!楽しみ!」
「と言うのは建前で」
「え」
駒込は僕が中高時代に使っていた駅なんです」
「学校は巣鴨が最寄じゃなかったっけ?」
「当時好きだった女の子が駒込駅から通ってたんですよね。その子を見るためだけに駒込使ってました」
「きもいもい…話しかけるとかじゃなくて見るためなんだ…」
「話しかけるなんて破廉恥です!」
「…」
「このサーティワンにはとても辛い思い出があるんです」
「あらら」
「友人にモテモテの子がいたんですが、僕が一人寂しく下校しているとその子がいたんです。なんと女の子を3人ほど連れて」
「お〜!ハーレム☆」
「もうね、その女の子たちの目がキラキラ、というかギラギラしてるんですよ。そしたら突然友人が僕に気付いて『お、今帰り?暇ならサーティワン行こうよ!』と」
「うわぁ…」
「今でも断れば良かったと思うんですが、なんか怖いもの見たさで頷いちゃったんです。その後のサーティワンは地獄でしたね…女の子たちがたまにちらりとこちらを見て『お前なんでいんの?』と目で伝えてくるんです」
「どんまいまい…」
「さて、美味しかったですね!次行きましょう!」
「まいまい色んな意味で今とっても寒いよ…」
「そうそう!この横断歩道も有名ですね」
「有名なの?」
「僕が人生で最も青春だった場所です」
「…」
「寝坊して遅刻しそうになった日、駒込駅を出たら雨が降ってたんです。参ったなあと思ってこの横断歩道で信号を待っていると同じクラスの可愛い女の子に声をかけられて…」
「おお!」
「相合傘してしまいました!ああああ青春でした!」
「あーいあい!あーいあい!おさーるさーんだよおおおお!」
「まあ緊張してろくに話もできずその子とはそれから何もなかったんですけどね」
「どんまいまい!」
「そろそろ大本命の六義園に向かいますか!」
「うん!」
「都内でもとっても有名な庭園で、紅葉シーズンは混みますが、それ以外の時期でも行くととても心が癒される空間なんです」
「んー、広いねえ!」
「今日は貸切にしましたし人もいませんからね!夜は紅葉のライトアップもすごく綺麗ですよ」
「貸切にできるんだ?!」
「妄想の中で人間は自由ですからね」
「んん?」
「それにしても風流な場所ですねえ…侘び寂びと言いますか…」
「園内と園外で別世界みたい!」
「ここには中高時代の思い出もたくさんあって。どうしても感傷に浸ってしまいますね」
「昔に戻りたい?」
「戻りたくはないかなあ。やり直したって、結局ストーカーを繰り返すだけでしょうし」
「そうだねえ」
「まあ、やり直せるならサーティワンには行きませんね」
「あはは」
「さてさて、ほっこりしたところでそろそろ締めましょうか。僕もこの後まいまいと夜のお楽しみがありますので」
「んん?」
「さて、今日も芭蕉さんにお願いしましょう」
「いるの?!」
「いますよ、ほら、茶室に」
「ほんとだ…」
「雨に濡れ 相合傘で 繋いだ手」
「え」
「さすがの芭蕉さんもここ六義園では下ネタが詠めませんでしたねえ!それでは次回のテーマは『習い事』です!また来週!」
「ぜひぜひみんなも六義園に来てねー☆ばいばーいっ♪」

砂のお城

砂のお城に住みたかった
誰かが建てて忘れ去られてしまった
潮風に吹かれてさらさらさら
ヤドカリが遊びに来ると
やあ、素敵な家だね
散りばめられた貝殻に
目を細めて頷いた

砂のお城に住みたかった
誰も振り向かないような
子供が作った小さな夢の跡
乾いたヒトデが恨めしそうに
暖かい陽の光を浴びて
夏が終わっちゃったね
潮の匂いにさようならと
呟いて眠った

砂のお城に住みたかった
夕暮れ時に満ちた海が
無邪気に波を押し寄せて
あっけなく連れ去られて
何もなかったみたいに
素敵な家は流されて

夏が終わっちゃったね

まつをのラジオ:初恋

「こんばんは、まぶたの裏にはいつでも女児を、まつをです!」
「ぎゅるんぎゅるんまいまいだよー!!!」
「寒いのに元気ですねえ」
「まいまい雪だいすきっ!」
「そう言えば先日都内でも雪が降りましたね。観測史上初の早さの積雪だとか」
「ゆーきーやま〜いま〜い♪」
「今年の冬は早漏だったんですね」
「…」
「思い出してみると、濃度も薄くびちゃびちゃしてコシもありませんでしたね」
「でも!確かに雪だよ!」
「僕はあれを雪とは認めません。早漏の先ばしり汁です」
「むぅ…」
「さて!今日のテーマは『初恋』です!まいまいの初恋はいつでしたか?」
「母の胎内から産まれ落ち此の世の光を眼前に浴び微笑する其の姿刹那逆光の中まいまいはパパに恋をしたのっ☆」
「お、おう」
「生まれた時からパパはまいまいの運命の人なんだよ〜♪」
「早いですねー。初恋のタイミングって人それぞれで、遅い人だと20歳を過ぎても初恋がまだだったりとか」
「それって『恋心』の捉え方の問題じゃないかなあ」
「僕もそんな気がします。それを恋と呼ぶかどうかって、その人の裁量に任せられているんですよね」
「そうそう!まいまいのパパへの想いも、誰かにとっては恋じゃないかもしれないし、まつをさんのまいまいの想いは誰かにとっては恋かもしれない」
「しかも、恋をするというのは歳を取るほど難しくなって。知識が増えるほどに、利害とか、体裁とか、それって本当に恋と関係あるの?っていうことが付きまとうんです」
「恋ってなんなのかな?」
「分からないです。でも、分からないことに安堵もしてて。分かってしまったら最後、僕はもう恋ができなくなる気がします」
「ほえー」
「僕の初恋は小学一年生の時でした。初めて教室というものに足を踏み入れて、そこにいた子に一目惚れをして、恋をしました」
「え!初耳!」
「低学年くらいの内は、好きな子にいたずらしちゃう男の子みたいな感じだったんですが、異変に気付いたのは高学年になってからでした」
「進展しちゃう?!しちゃう?!」
「その頃になると、好きな気持ちが膨らむとともに、劣等感が膨らみ始めたんです。太ってたりで自分に自信がなかったのも相まって」
小錦みたいな身体してたもんね」
貴乃花って呼ばれてましたね。次第に、その子が近くにいるだけで動悸がするようになって。目なんか合わせることもできなくて。でも本当に好きで寝ても覚めてもずっとその子のことを考えて。どんどん、偶像になっていくんですよ」
偶像崇拝まいまい…」
「6年生の頃には半径5mに近づくくらいで心臓ばくばくしてたので当然心理的な距離も縮められなかった僕は、ついにある境地にたどり着きました」
「性犯罪者…?」
「ちがああああああああああああああう!!!!!!!」
「ちがった」
「当時の僕は純粋無垢でしたからね。そうじゃなくて、その子が幸せならいいやって。それだけで僕も幸せだと。その瞬間に僕は『大切な人の大切な人』になることを諦めちゃったんです」
「悲しい初恋だねえ…」
「でも、その頃に育んだ劣等感が今でも生きる糧になってる気がします。自分は価値がない、人生に期待をするな、他人を求めるなって」
「いきる…かて…?」
「さてさて、長くなってしまいましたね!とても大事な思い出なので熱く語ってしまいました!」
「雪も溶けちゃったねー!」
「ちなみに、人間の脳は好きなものや人に反応する部位を作るそうですよ」
「つまり?」
「好きな人の名前を聞くだけでドキドキしたり、好きなもののことを思い出すだけでわくわくしたりするのは、それに反応する場所が脳内に作られるからだそうです」
「まいまいの頭はパパに反応する場所しかないかもっ☆」
「さてさて、今日は長くなってしまったのでお便りコーナーはお休みです!」
「そもそもお便りなんて来てないからね〜」
「こら!来週のテーマは番外編『まいまいとデート』です!それでは芭蕉さん!」
「初恋の あの子が喘ぐ AVで」
「ありがとうございます!次回はもう12月!それでは!」
「でぃっせんばあ!」

静岡

ここのところ、ラジオばかりに精を出していたり、オナホばかりに精を出していたので何かブログらしいことでも書こうと思い筆を取った。のだが、何か特筆すべき出来事もなければ、やっぱり沢野美香さんは可愛いなとか、他が隠れている故に冬服の女子高生の太ももは最高だな、なんてことを考えてばかりいる。

ブログらしいことと言えば、10月から住まいを変えて静岡で暮らしている。初めは慣れなかったが、霧ばかりかかって視界の悪い街にも、死んだはずの妻から手紙が届くのにも随分と身体が馴染んできた。所構わず現れ奇声を発する化け物は相変わらず好きになれないが、金属バットを持ち歩いていればなんとかなるものだ。

死に別れた妻によく似た女性と街を歩くのが日々の楽しみになりつつある。廃病院や朽ち果てて古びた紙の香りがする図書館の暗闇を歩いていると、あの頃の、幸せだと胸を張って言えた日々に戻れたかのような気持ちになれる。

人の記憶とは不思議なもので、あれだけ愛していた妻も、失くして数年と経つとその姿形が次第に思い出せなくなっていく。それなのに、彼女の影だけは日ごとに増して濃くなるのだ。その影は私の心を少しずつ、少しずつ食い潰して空っぽばかりが大きくなっていく。

私は今、君が好きだった静岡にいる。「ついに気が狂ったか」。そんな言葉を残して知人はみんな離れて行ってしまった。狂っているのは奴らの方だった。最後に会った高校の頃の友人は頰に目があって、胸骨の上あたりの空洞で息をしていた。もう会うのは勘弁だ。

悲しいことばかりではない。私は妻を亡くして、自由を知った。自由とは、つまり、他人を諦めることだったのだと思う。それは、自意識の暴走を、自尊心の妄言を許してあげることだったのだ。

ああ、静岡。三角頭はこの街にいる。私は殺されるかもしれない。だけれども、私は自由だ。